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「東電OL殺人事件」

今から10年程前に起きた、この事件はセンセーショナルに報道されましたから、覚えている方も多いと思います。私も、詳しいことは知らないながら、不思議な事件として引っかかっていました。

何年か前、私の好きな作家、桐野夏生の「グロテスク」と言う本を読みましたが、この事件がモデルになっていて、(ほかに、オーム真理教なども絡んでいて、すごく惹きつけられました)とても強烈な印象を持っていました。

先日、図書館でこの本を見かけたので、借りてみました。佐野眞一さんの力作です。

彼は裁判をすべて傍聴し、現場に足を運び、関係者にインタビューもして、丹念にこの事件を追っています。そして、その中で、被疑者であるネパール人のゴビンダが無実であることを確信し、面会したり差し入れなどもして、支援しています。

本の大半はゴビンダの無実を証明する事実が丹念に書かれていて、そこにはネパールと言う国、そこから稼ぐためにやってくる人々の実態が書かれています。また、日本の警察の予断に基づく強引な捜査や裁判のいい加減さなども、呼んでいると腹が立ちます。無実で言葉もあまり通じない異国の牢獄に3年も拘束された被疑者には同情の気持ちも持ちました。

肝心の事件ですが、当時東電というエリート企業の有能な社員であった泰子が、退社後は売春をしており、その挙句空きアパートの一室で殺されているのが見つかったと言うものです。その昼と夜の落差、陳腐な言い方ですが、心の闇が知りたいと思わずにいられません。

彼女の両親は高学歴で、父も東電に勤めており、亡くなる間近まで、順調に出世していました。彼女も高校から慶応に通い、父が夭折したあと、東電に入社します。彼女は大変頭がよく且つ努力家で成績もトップクラスだったようです。入社後も何本も論文を書き、それが入賞したこともありました。父親を非常に尊敬し、誇りに思っていたそうです。又、潔癖で、異性との交際もなかったようです。ファーザーコンプレックスの気味があったのではないかと思いました。父の死後は、一家の大黒柱としての強い意思も示していましたし、そのせいか金銭には非常に細かかったようです。けれど、彼女がこんなことをした頃には十分な収入があり、妹も社会人として働いていたのでお金のためとは思えないのです。

しかも、彼女のやっていたことは、ただの水商売から始まって、事件の頃には円山町(渋谷のホテル街)の道端に立って、客引きをし、どんな客でも厭わず、ホテルはおろか、駐車場の暗がりでも売春をしていたと言うのですから、背筋が寒くなる思いがします。

この本でも、その理由はわかりませんでした。佐野さんは彼女が、自分を貶めたいと言う衝動があったのではないかと言っていましたが、私もそうとしか考えようがないと思いました。しかも、彼女は自分に課すように、日に4人の客をとり、終電では必ず家に帰っており、その行動を几帳面に手帳につけていました。まるで、仕事のように、義務のようにです。何故なんでしょう!考えても何もわかりません。ただ、非常に痛ましい思いがします。彼女には普通の女性のささやかな幸せは一時もなかったし、そんな自分をどうするすべもなかったのではないでしょうか。悲しく、怖い事件です。

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