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「心臓を貫かれて」

19832307_2 マイケル・ギルモア著、村上春樹訳 「心臓を貫かれて」を、読みました。私は村上ファンなのですが、彼がこの本の事を書いていたのをどこかで読んで、そのうち読んでみようと思っていたのですが、たまたま図書館で見つけて借りてきました。

すごく気が滅入るというのが本当のところです。読んでいる間ずっと暗い気持ちになってしまいました。向き合いたくないことに、無理に向き合わされてしまったけれど、それでも読んでよかったと思いました。

アメリカのある一家の、あまりにも悲劇的な物語、しかもこれは実話なのです。アメリカでセンセイションを起こした殺人犯の弟が、事件から十数年を経て、自分の家族の事を丹念に調べ、記憶を掘り起こして書いた血のにじむ様な記録なのです。

マイケルには両親と3人の兄がいました。母は敬虔なモルモン教の家庭に生まれ、環境に反発して離れた町に出て行き、親子ほども歳の離れた父と出会い、結婚しました。しかし、父は以前、何人もの妻と結婚、離婚を繰り返していたし、しばしば長期にわたって家を空けました。彼は詐欺師で、そのうち妻を連れてあちこち詐欺をしながら渡り歩くようになりました。そのような生活が、2人の子供が出来るまで続き、やっと正業に就くようになって、ひとところに落ち着いたのですが、彼はすべてを自分の思い通りにしなくては気が済まず、激しい暴力を妻や子供に向かって絶えず振るうようになっていきました。

その暴力の酷さは読むに耐えないくらいでした。父母の激しいけんかに続く、父の暴力、子供が止めにはいれば、そのこが暴力の対象になりました。

マイケルは、歳の離れた末っ子で、父は彼だけは溺愛し、連れて歩きました。だから、マイケルは、ずっと父を一番愛していました。素直に、すべてを知るまでは。

そんな家庭であったから、無理もないのですが、次男のゲイリーと三男のゲイレンは段々ぐれていき、悪い仲間と付き合い、犯罪に手を染めるようになります。犯罪は悪質さを増していき、二人は刑務所を出たりはいったりし、酒とドラッグにおぼれます。

そして、経済的には豊かになり、広い家に住むようになったのもつかの間、父が死にます。そのとき、ゲイリーは刑務所で知らせを受け、号泣します。そして、冷静なマイケル以外の家族は激しくショックを受け、悲嘆にくれます。あれほど、憎んでいたはずなのに。

ゲイリーとゲイレンの素行はますます悪化し、父の死によって経済的にも追い詰められていく中、ゲイレンが殺されてしまいます。そしてゲイリーはその生涯の半分を刑務所などで送った挙句、その美術の才能を見込まれ、仮釈放となって親戚に預けられたにもかかわらず、簡単に、残虐に、二人の青年を撃ち殺して捕まります。

ゲイリーは知能も優れ、美術に秀でていました。そのつもりになれば、まともに生きていけるのに、いつもそうでした。そして、ついに死刑を宣告されました。

アメリカでは、死刑廃止の動きの中で、もう10年も死刑は執行されていなかったのですが、ゲイリーは上告せず、銃殺をあくまでも要求します。そのことで、彼は有名になり、国中の憎しみや憧れの的となったのですが。

マイケルは何とか死刑をやめさせようと努力しますが、何度かゲイリーと面会を果たし、それが虚しいい事を知ります。どちらにしても、良心の呵責からは逃れられないのですが。

落ちぶれて、トレーラーハウスに住むようになった、長兄フランクと、病んだ母と、3人で、マイケルはゲイリー処刑のニュースを知ります。

その後、母も死に、最期まで母の面倒をみた、フランクも行方知れずになってしまいましたが、この本を書く頃、フランクを探し当て、色々な話を聞き、衝撃的な事実も知りました。マイケルは、その頃は著名な音楽ライターになっていたのですが、世間を騒がせ、彼をその渦に巻き込んだ事件のずっと後にこの本を書いたわけです。

これは、ゲイリーによる殺人事件の顛末というより、家族の絆の話だと思いました。父が死んだとき、彼らは、父との修復不可能な関係を悲しんだのではないでしょうか。なんともつれた、深い愛情と憎しみでしょうか。この家族は、最期まで、憎しみ合いながらも愛し合っていたのかと思うと、いたたまれない気持ちがしました。

人間の原点はやはり家族なんじゃないでしょうか。そこから、幸せも生まれれば悲劇も生まれるんだと思います。単純ではありませんが。

マイケルはこの本を書くことによって、出直したかったのかも知れないと思います。忘れることはありえないにしても。

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コメント

読ませていただきました。私はゲイリーがユタ州プロボに住んでいた頃、同じ町に留学で住んでいたモルモン教徒です。今は広島在住。

ゲイリーについての本(死刑執行人の歌)もマイケルの本も英語で読みました。いずれも悲しい物語ですが、マイケルは本当に気の毒としか言いようがありません。

彼がこれほどのノンフィクションを書くに至った点に一縷の救いを感じたことでした。

投稿: NJ | 2008年4月25日 (金) 00時36分

☆NJさんへ

それはすごい体験だったでしょうね。びっくりしました。モルモン教についても書かれていましたが、無宗教の私にはちょっと遠く感じられたというか、あまり理解できませんでした。とても戒律が厳しい宗教のようですね。息子の友達にも宗徒がいますが、日本でも結構いらっしゃらるのでしょうか。

原語で読まれたとか。それに宗教のことも身近だし、私なんかより、随分とリアルだったと思います。

この本を書くことが、マイケルにとって、ある種のカタルシスになったと思いたいです。

投稿: めろん | 2008年4月25日 (金) 22時36分

モルモン教徒(末日聖徒と自称)は日本に十数万会員数が登録されていますが、実際礼拝に参加するのは2万人前後でしょうか。

(ゲイリー・ギルモアのことは私たち家族がプロボに在住の頃は何も知らなかったので、後で知って驚いたというくらいのことでした。)

投稿: NJWindow | 2008年4月28日 (月) 00時47分

☆NJさんへ

そうですか。意外に沢山いらっしゃるのですね。世界には宗教がらみの戦争や揉め事が絶えないことを思うと、私はどうも引いてしまいます。

西欧では、宗教抜きでは歴史も生活も語れませんね。日本は特殊な国なのかもしれません。

投稿: めろん | 2008年5月 2日 (金) 11時14分

この本が、実際にあったことをかいているというのが驚きです。世の中には私たちの想像を超える環境で育った人がいるのでしょうね。それを、本にしたなんて勇気あります。古い傷をなめるような痛さがあるでしょうに。

子供は親を選んでうまれてこられない。そうなんですよね。強烈過ぎてコメントできないわ。

ところで先回の花の写真、やっぱり我が家の花と同じだと思います。でも、うちのはとっくに花が散ってますから一月ぐらい花期が違うのね。なんか共通点多いですね。

投稿: ちまき | 2008年5月 2日 (金) 12時26分

☆ちまきさんへ

私も読み通すのに努力が要りました。あまりに悲惨で。何故、こうまで破滅へ向かってしまうのか、胸が痛みました。家族の絆は良くも悪くも断ち切ることが出来ないということを思い知らされました。

やっぱり同じ花なんですね。ちまきさんのブログ見てから、早く花が咲かないかなって思ってたの。不思議ね。

投稿: めろん | 2008年5月10日 (土) 01時10分

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